昭和史発掘/松本清張

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2009年ももう半分が過ぎてしまいました。
今年がどんな年になるかは今後の頑張り次第ですが
何とか平和に過ぎて行きそうで何よりです。
では今から100年前の1909年はどんな年だったかご存じですか。
日露戦争の直後、第一次大戦の直前というころで
あんまり平和な時代ではありませんでした。
この年、伊藤博文も暗殺されてしまいます。
でも文芸の世界ではこの年は豊作でした。
中島敦、太宰治、松本清張、といった大作家がこの年に生まれています。
彼らを特集した文芸誌なども今年に入って色々と出ています。
せっかくですから秋の夜長を待たずに、今から読んでみるのはどうでしょうか。
特にこれからの暑い季節にぴったりなのが、松本清張のノンフィクション。
清張は『砂の器』や『黒革の手帖』など近年映像化された優れた小説で知られていますが、
それ以外にも圧倒的な取材力で書きあげられたノンフィクションを数多く残しています。
『日本の黒い霧』(上下巻)『昭和史発掘』(全9巻)を読むと、陰謀で世の中を変えようと
企む黒い手の存在を感じ寒々してきます。

昭和史発掘〈3〉 (文春文庫)
昭和史発掘〈3〉 (文春文庫) 松本 清張

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この中におさめられている<スパイMの謀略>が特にお勧め。
戦前の日本共産党は活動資金に困窮してしまい、銀行強盗というとんでもない手段に出てしまう。
計画は用意周到で検問も悠々と突破するが、事件の数日後にはあっさりと露見する。
それもそのはず。銀行強盗を計画・指揮した人物がスパイだったのだ。
さらに、そもそも活動資金に困窮するようになったのもこのスパイの謀略だった・・・
その数週間後には共産党の全国会議が秘密裡に行われる予定だったが
ここで彼らは一網打尽になってしまう。
この会議自体を手配したのもこのスパイだった・・・
などなど、まるで小説のようなにわかには信じがたい活動をしたスパイMの活動を追った清張の渾身の一作です。
清張自身が熱烈な日本共産党の支持者だったわけですが、その筆は冷静そのもの。
坂道を転がり落ちるように壊滅していく共産党とそれを演出するスパイ。
もしかしたら今の時代にもこんな天才的なスパイがいて世の中の裏側でなにかしているかもと思うと
ちょっと怖いですね。
興味をもたれた方はこちらもお勧め。

昭和史最大のスパイ・M―日本共産党を壊滅させた男 (WAC BUNKO)
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こちらは清張のたどりつけなかったスパイMの前歴・その後・死までを調べきっています。
その写真も掲載されており、<スパイMの謀略>を読んだ後だと感慨もひとしお。
答え合わせのように楽しめるので、先に<スパイMの謀略>を読んでおきましょう。
さすがに死亡したときの仮名までは掲載されていません。
そこはやはり、「スパイ」ですから。